新しい依頼


 最近、日本の大学で博士号を取得し、現在、中国の大学で研究をされている方から制作の依頼があった。

 そもそも、弊社は、日本で博士号を取得した留学生の方の博士論文を埋没させたくないという思いから設立された面もある。考えてみてほしい。頑張って日本語で博士論文を執筆しても、日本の学術出版社はまず、出版してくれないだろう。母国へ戻っても、日本語である。恐らく出版の目途もたつまい。身命を賭して書き上げた博士論文が誰の目にも止まらず一生を終えなければならないというのは、あってはならないことだと思う。

 弊社は、一般書店に流通させることはできないが、オンライン書店「博論の本棚」で細々とではあるが販売できる。それに国会図書館に納本されるので、まず半永久的に保管される。

 その点を理解していただいた上での依頼だったので、とても嬉しかった。

 弊社のような出版社は日本ではまだ、少ない。私は学術出版社の在り方をずっと模索してきた。なぜか、著者が上で、出版社が下というそんな慣習があるように思う。そのくせ、両者は契約書もかわさず、著者の権利はあいまいだ。絶版になっても著者は何もいえない。在庫がどれほど残っているのか等に関しても何だか言い出しにくい。

 権利関係を明確にしたうえで、契約書もかわし、仕事の対価(製作費のこと)もいただいて、著者の代わりに本を販売する。著者は、個人事業主になって、自分の本を売るそういう意識。

 そんな気持ちで経営してきたが、なぜか著者に対して卑屈になる自分がいる。開業してから3年、見積りだけ依頼してそのまんまの著者や、連絡もいただけない方もいた。だからと言って、どういうふうに編集者としてふるまえばよいかもわからない。

 そんな思いを抱えていた時に、中国の研究者の方から、「良い作品を作成できるよう一緒に頑張りましょう。」との言葉をいただいた。私は、初めて、著者と対等な位置に立って仕事ができると思ったし、編集のプロとして全力を尽くそうと思った。とても感謝している。

文責:髙村京夏