弊社の知名度について、思うこと


先日、弊社での出版を検討している外国籍の研究者Hさんと、Zoomで打合せをしました。

Hさんから「博論社から、まだ2冊しか本が出ていないのは、なぜですか。博論社は知名度はありますか」とご質問をいただきました。

正直、痛いところを突かれました。

ご質問には、弊社には知名度はあまりないこと、日本では自費出版にあまり良いイメージがなく、二の足を踏まれているのではないかと申し上げました。

さらに、日本の非常勤研究者の置かれている現状は、想像していた以上に厳しく、弊社の非常勤価格でも支払うことは難しいのではとお伝えしました。

 

●弊社が著者に委託制作費をご負担いただく理由

「自費出版ではなく、普通の出版をすれば知名度も信用度も上がるんじゃない?」と思われるでしょうか。

弊社が著者に委託制作費をご負担いただく理由は、何だと思いますか?

 

まず、博士論文は“売れない・出版しても利益が出ない”厳しい現実があります。

売れない本をあえて出版する、出版社はあまりありません。

この「博士論文を出版しても利益が出ない」現状を前提とした上で、倒産せずに事業を継続するにはどうすれば良いでしょうか。

通常の出版社のような業態を前提にしていたのでは、叶うはずもありません。

弊社は、IT技術が発展した現代だから実現した出版社であると考えています。

弊社には、リアルの事務所も、在庫を保管しておく倉庫もありません。

今後も社員を雇うつもりもありませんし、取次を通す書店販売も考えていません。

通常考え得る、経費を削ぎ落したからこそ、利益の上がらない書籍を、弊社は出版し続けることができるのです。

それでも、最低限の委託制作費を著者にご負担いただかないと、博士論文を出版するという事業を継続することは難しいのが現実です。

 

●全く新しい出版形態をとっている博論社

私は「弊社は自費出版の出版社である」という認識で事業を営んでいません。

弊社は著者と出版費用を負担し合って、一緒に博士論文を出版する、全く新しい出版形態をとっている出版社」と捉えています(そのため、弊社のWEBサイトでは"自費出版"という用語は一切使用していません)。

すべては、経営理念*1を貫くためです。

このあたりがなかなか、ご理解いただけません……。

お問合せいただいた研究者の中には、弊社のことを"業者"と認識され、無下に扱われる方も結構、いらっしゃいます。

一方で、現在、弊社の書籍、2冊の著者はどちらの方も、弊社の経営理念・事業内容に賛同し、弊社を育てていくことも含めて出版に踏み切ってくださいました。

研究者以外にも弊社のように、学問を愛し、特に人文学分野の研究者の置かれている窮状を何とかしたい、と考えている者はいるのです。

 

●研究者にとっての博論社を利用するメリット

冒頭のHさんは、弊社での出版を考えた一番の要因として「製作費の安さ」を挙げられました。

実は、私は著者にとって弊社を利用するに際しては、メリットしかないと自負しています(書店に本が並ばないのはデメリット*2ではありますが、在庫を抱えないですむことを考えればそれほどでもないと思っています。知名度のなさはこれから改善できると思っています)

開業に際して、研究者にとって弊社を選んだことがメリットになるように業務内容を考えましたから。

研究者を第一に考える弊社の姿勢は、私が今でも宗教哲学を勉強し続けたいと思っていること、家人(弊社顧問の高村夏輝)が大変な思いをして哲学の研究を続けていること、父が研究者であったこと(仏文学者の内藤陽哉)などから、私自身のアイデンティティが商売人ではなく、「研究者寄りにある」ことが大きく関係していると思います。

 

冒頭のHさんの質問に戻りますが、博論社の知名度、ブランド力はどうしたら付けることができるのか。

博論出版を検討している研究者の方に、弊社の事業内容にご賛同いただいた上で、一緒に本を作成し、1人でも多くの人に本を読んでもらえるように一緒に販売していく、これしかないと思っています。

 

博論社 代表

高村京夏


*1 弊社の経営理念は「博士論文(人文学)の出版をとおして、学問成果の埋没を防ぐ」です。理念を実現するための、安価な製作費であり、研究者の権利(著作権・出版権)の保持であり、(研究者が在庫を抱えるなどリスクのない)オンデマンド出版です。

*2 2022年7月より、弊社は共同書店PASSAGE(神保町)の棚主になりましたので、「書店に著書が並ばない」というデメリットは若干解消されました(2022/09/05加筆)。

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コメント: 1
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    石井敦子 (火曜日, 15 8月 2023 13:18)

    先ほど、フォームから博士論文出版の依頼のご連絡をさせていただきました石井敦子です。
    御社の経営理念に共感しております。ご一家で哲学の研究をし続けておられる学問への姿勢にも感銘を受けております。
    10年前に博士論文を提出しましたが、ずっと出版のことは気になりながら目の前の仕事に追われていました。
    3年前から大学院での研究指導をする立場となり、やはり研究者として、心血注いで取り組んだ博士論文を世に出す責任があるという思いが強くなりました。
    どうか私の博士論文の出版に向け、お力添えいただけますよう、よろしくお願い申し上げます。