研究不正に対する編集者の向き合い方


今回のブログは、同業者の方向けです。

 

人文社会科学分野での研究不正を、書籍を編集する段階で、どのように見つければ良いのか、出版社としては頭の痛い問題です。

なぜなら、その研究分野の研究者と比較し、全くの素人ではないにしろ、編集者はやはり、素人だからです。

目の前の原稿をいかに読み込んだところで、巧みに隠蔽された研究不正を見つけることは、至難の業でしょう。

 

2025年5月31日、日本出版学会にて、松井健人氏(東洋大学文学部)が『日本の人文社会科学系学術書籍における研究不正と出版社対応の類型化』を発表しました。

大変、勉強になる論文ですので、ご一読をお薦めします。

 

松井氏は、論文の中で50の研究不正の事例中、「引用・出典に関する研究不正がすくなくとも 45 事例が該当するものとなっている。」*1としています。

論文には、事例リスト*2が示されており、「著者名」「出版社」「不適切理由」「出版社対応」「不正理由」等が具体的に示されており、大変参考になります。

松井氏が示している、「研究不正の様態」*3を理解することが、編集の段階で不正を見つける前提となることは間違いないと考えます。

「不適切な出典表示」等は、編集の段階で指摘することが可能ですので、いたずらに恐れることなく真摯に原稿に向き合うことが何より重要と考えます。

2025年6月16日 高村京夏


出典

*1 松井健人『日本の人文社会科学系学術書籍における研究不正と出版社対応の類型化』日本出版学会、2025 年度春季研究発表会、発表資料、2025 年、3ページ。

*2 同論文、6~9ページ。

*3 同論文、3ページ。